理想の楽園「UNIVERSE25」(ユニバース25)が示す人類の未来

理想の楽園の崩壊。

これからする話は神話やエンタメではありません。

1960年代から1970年代にかけて、アメリカの動物行動学者ジョン・B・カルフーン博士が実際に行った、「UNIVERSE25」という実験です。

カルフーン博士は、ネズミが何不自由なく暮らせる「理想の楽園」を作り出しましたが、最終的にはその楽園が滅びへと向かっていったのです。

この実験が私たち人間にも重要な教訓を与えるとして注目を集めています。

いったい、「UNIVERSE25」とはどんな実験だったのでしょうか?
そして、どんな未来を示唆しているのでしょうか?

目次

「理想の楽園」で何が起きたか?

ジョン・カルフーン博士が作り出した「UNIVERSE25」は、ネズミにとって「完璧な楽園」でした。

博士は、自然界で動物たちが死ぬ理由を「5つの死」に分類しました。
それは「移住(移動)」「資源不足」「厳しい気候」「病気」「捕食(天敵に襲われること)」です。

「UNIVERSE25」では、この5つの要因を全て取り除きました。

ネズミたちは四方を壁で囲まれた広い空間に住み、常に十分なエサと水があり、清潔で病気にもなりません。
さらに、快適な温度が保たれ、天敵もいないまさに「楽園」です。

このような理想の環境で、ネズミたちがどのように生活し、繁栄していくのか──博士はこれを観察し続けました。

実験の4つのフェーズ:栄光から崩壊への道

実はカルフーン博士は「UNIVERSE 25」以前に、UNIVERSE 1から24までの実験を行っていました。

これらの実験では、ネズミたちは12匹程度のグループを作り、その中で個体数の増減を繰り返しつつ、全体としてはほぼ安定した数を保つ傾向を示していました。

カルフーン博士は、この現象の原因が、実験施設の繁殖スペースが限られていたことにあると考えました。

そこで、これまでの実験よりもはるかに広く、立体的で複雑な構造を持つ新しい巣を設計し、これを「UNIVERSE 25」と名付けたのです。

この「UNIVERSE 25」では、スペースの制限がほとんどないため、ネズミたちが理論上の最大数まで繁殖することができるだろうと、カルフーン博士は予測していたのです。

フェーズA:初期状態

1968年、ネズミの繁殖による都市生活のシミュレーション実験「UNIVERSE 25」は、8匹のネズミから始まりました。

まず104日間は「初期状態」として、UNIVERSE25に放たれた4組8匹のネズミが環境に慣れる期間です。
食べ物も水も住み心地も最高で、縄張りをつくり、巣作りを始め、ネズミたちは平和に暮らしていました。

フェーズB:急速な個体数増加

315日目、ネズミたちの繁殖が進み、個体数が急激に増加しました。

最初の子ネズミが生まれた後は、およそ55日ごとに人口が倍になるペースで増え続け、620匹まで到達しました。
ネズミたちは、この楽園で安心してどんどん増えていったのです。

まさに、「繁栄」の時代でした。

フェーズC:崩壊の始まり

フェーズCに入ると、それまで自由に巣や餌場を選んで生活していたネズミたちに、奇妙な変化が現れ始めました。

巣箱や餌場は十分な数があり、どこで生活しても食事しても問題がないはずなのに、ネズミたちはなぜか特定の場所に集まり、過密状態で暮らすようになったのです。

例えば、本来15匹程度しか入れない巣箱に、なんと111匹ものネズミがぎゅうぎゅうに詰まって生活するという異常な状況が見られました。

これは通常のネズミの行動からは考えられないことであり、無理に一箇所に集まることでかえってストレスや争いが増える結果になりました。

さらに、餌場も複数あるのに、なぜか同じ時間帯に一斉に特定の餌場に集まり、限られた餌を奪い合うようにして食べるようになりました。

ネズミには本来、自分のテリトリーがあり、他の個体と距離を保ちながら規律ある行動をとる習性があります。
しかし、この時期からその習性は崩れ、異常な密集状態が日常的に見られるようになりました。

「ニートネズミ」

フェーズCが進むと、ネズミたちの行動にはさらに大きな変化が現れました。

社会の中での役割や行動が2つのグループに分かれたのです。一つは集団行動を維持するネズミたちで、彼らは一定の巣箱で暮らし、他のネズミと共同で生活を続けました。

しかし、このグループは全体の3分の1ほどで、他の3分の2のネズミたちは、テリトリーを持たず、他のネズミとのコミュニケーションを断ち、繁殖もせず無気力な状態で過ごす「ニートネズミ」へと変わっていきました。

この「ニートネズミ」たちは、通常のネズミのように巣箱を使わず、巣に戻ることなく床で寝るという奇妙な行動を取り始めました。

社会から孤立し、積極的な行動を放棄した彼らは、他のネズミからも疎まれ、オス同士での縄張り争いやメスからの拒絶にさらされることが増えていきました。

防御本能の喪失とメスたちの攻撃性

メスたちもまた、この過密でストレスの多い環境の影響を大きく受け、行動が変化しました。

通常、オスが縄張りを守ることで安心して子育てをするメスたちは、攻撃的な「アルファオス」が周囲を攻撃するようになり、安定した生活が脅かされました。

オスが守ってくれない状況で、メスも防御本能を失い、攻撃的な性格へと変わり始めたのです。

さらに、メスたちは生まれた子ネズミを攻撃するようにもなりました。

通常ならば子どもを大切に守るはずのメスたちが、ストレスによって異常行動を示し、子どもたちを巣から早期に追い出し始めました。
巣を追い出された子ネズミたちは、身を守るために成長する前に孤立し、無気力な「ニートネズミ」として過ごすしかなくなっていったのです。

楽園の崩壊

フェーズCで起きたこれらの変化は、UNIVERSE25におけるネズミ社会の崩壊を決定的にしました。

ネズミたちは社会的な役割を果たすことをやめ、無気力なニートネズミが増加していきました。
強いオスたちは自分の縄張りを守ることに必死で、他のネズミを犠牲にすることをいとわなくなり、メスたちも防御本能を失い、子どもを守ることを放棄しました。

こうして、ネズミたちは過密とストレスの中で、本来の行動を維持できなくなり、社会全体が正常に機能しなくなっていったのです。
このフェーズCの時点で、UNIVERSE25はもはや「楽園」とは呼べない混沌とした状態に陥り、次のフェーズDへと移行していきます。

ネズミたちは密集し、縄張り争いやストレスが生まれました。

そして、争いに負けたオスたちは無気力になり、活動しなくなっていきました。
さらに、子育て中のメスも危険にさらされるようになり、少しずつ出産数が減り始めました。

楽園だった環境が、少しずつ争いや無気力さで満ち始めていったのです。

フェーズD:人口減少と「美しい者たち」の出現

実験開始から560日目には、ついに個体数増加が完全にストップしました。

新しい子ネズミが生まれなくなり、ネズミたちは次第に互いに関わらなくなりました。

そして世界は、オスはメスに興味を示さず、争うこともなく、ただ自分の身体の手入れを続けるだけの「美しい者たち(beautiful ones)」で満たされたのです。

彼らは一見健康に見えますが、他の個体とほとんど関わらず、社会的に孤立していました。

フェーズD開始から920日目、この理想の楽園はネズミの全滅で幕を閉じることとなったのです。

History of population of mice in a closed Utopian universe. via Wikimedia Commons.

人間社会への教訓

この実験は、単なるネズミの話ではなく、現代の人間社会にも共通する問題を暗示しています。

UNIVERSE25のネズミたちは、身体的な死から解放された結果、「精神的な死」に包まれたといえるかもしれません。

都市への人口集中や、現代の若者の「草食化」「寝そべり族」といった現象も、ある種の「美しい者たち」の姿に似ていると思いませんか?

天敵がなく物質的には豊かでも、他者との関わりや社会的なつながりが希薄になると、人間も精神的に孤立し、行動が消極的になりがちです。

そしてこれは、私たちの暮らす日本も例外ではありません。

日本の未来

ここで、日本の人口推移をグラフで見てみましょう。

ネズミの個体数の推移のように、ピークに達した後減少していますよね。

「UNIVERSE25」のポイントは、この人口減少の行く末を示しているのではないかと考えられる点です。

また、都市圏への一極集中が進むについて、都市圏での地域所得ジニ係数で測られる格差が広がっています東京圏における地域格差――産業・職業・意識┃独立行政法人労働政策研究・研修機構)。

格差是正や地方創生への取り組みは、人類滅亡への抵抗運動となるのかもしれません。

まとめ:私たちにできることは何か?

「UNIVERSE25」から学べる教訓は、私たちに「人とのつながり」の大切さを再認識させてくれます。

物質的な豊かさを追い求めるだけでなく、精神的な豊かさを得るために、家族や友人、地域社会との関係を大切にすることが重要です。

この記事を読んで、「自分ならどうするだろうか?」と少し考えてみましょう。

物質的な豊かさだけではなく、他者と協力し、支え合う生活を大切にすることが、私たちが「精神的な死」から逃れる鍵となるのかもしれません。

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この記事を書いた人

大学受験を通して学ぶことが楽しくなり、工学系の大学院で研究を通して、興味を追求することの奥深さに触れ、すべての人に「楽しく」「追求したくなる」ものを見つけてほしいと思うようになりました。

一人ひとりの「楽しい」を見つける手助けのため、世界のいろいろな面白いことを解説・実践しています!

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