日本では夏の風物詩として愛されるセミですが、ところ変われば大パニックを起こす厄介者。
そんな「厄介なセミ」、素数ゼミによって、2024年夏のアメリカは大混乱!
今回は、そんな「素数ゼミ」の不思議を探りましょう。
221年ぶりの大量発生!? 「素数ゼミ」とは
素数ゼミとは、その名の通り地上に出てくる周期が素数のセミのこと。
セミは幼虫のうちは地中で暮らし、成虫になると地上に出てきて、短い期間で繁殖して一生を終える虫です。
幼虫として地中で過ごす期間は種によってまちまちですが、その中でも地上に出てくる周期がピッタリ決まっているセミのことを<b>周期ゼミ</b>と呼びます。この周期ゼミの別名が、<b>素数ゼミ</b>なのです。
素数ゼミには現在15種類がいますが、いずれも13年周期のセミと17年周期のセミです。
13も17も、1と13・1と17以外では割れません。
素数とは「1とその数以外で割れない数」のことですから、とても理にかなったネーミングですね。
自然の神秘、素数ゼミ誕生のわけ
素数ゼミはアメリカの特定の地域に生息しています。
しかし、セミが数を理解できるわけでもないのに、どうして地上に出てくる周期が素数になったのでしょう?
実は、それには最小公倍数が関係しています。
最小公倍数は、ある2つの数にそれぞれ整数をかけ算して並べていったとき、一番最初に出てきた同じ数字のこと。
たとえば、2と4の最小公倍数は、2×2=4と4×1=4で「4」になりますね。
セミの話に戻ると、実は最初、アメリカにはもっと色々な種類の周期ゼミがいたと考えられています。
暖かい南では12~15年、寒い北では14~18年の周期のセミがいた、といわれているようです。
では、最小公倍数を考えてみましょう。12年周期で地上に出てくるセミと、15年周期のセミではどうでしょう?
12の倍数は12, 24, 36, 48, 60… 15の倍数は15, 30, 45, 60, 75…
……60年目で、セミの周期がピッタリ一致します。
12年周期のセミと15年周期のセミが一緒に出てくると、交雑が起こります。
違う周期のセミと子孫を残してしまうということですね。
すると、この周期が乱れてしまいました。
13年で出てくるセミや、14年で出てくるセミが生まれてしまって、12年と15年の周期のセミは減ってしまいます。
こうして、周期の合う頻度が高いセミは、どんどん数を減らしてしまいました。
そして、頻度が最も合いにくい13年周期と17年周期……つまり、素数ゼミが生き残ったと考えられています。
人間の見つけた「素数」という概念が、進化によって自然に生み出されているとは……まさに神秘です。

超・大量発生で困ること
13と17の最小公倍数、221年ぶりの大量発生を迎える素数ゼミ。
ですが、セミがたくさん生まれて困ることとは何でしょうか。
困ることその1:騒音
セミがたくさんいて困る……と言われて、最初に思い付くのは「騒音」ですね。
夏の風物詩といえどうるさい!
筆者の実家は田舎なので、毎年のことながらアブラゼミに困らされています。
……ですが、素数ゼミの鳴き声の話を聞いたら、アブラゼミがかわいいものに思えてきます。
素数ゼミの騒音は1種類でも常識外れ。
2種類揃う今年の夏には100デシベル、悪いと120デシベルに近くなるといわれています。
100デシベルは地下鉄構内や電車が走っているときのガード下の音、120デシベルになると飛行機のエンジン音を間近にしているのと同じくらい。
なんと、聴覚機能に異常をきたす(!)とされているほどの音量です。
困ることその2:大量の死がい
音だけではありません。素数ゼミは死がいも大問題を引き起こします。
1兆匹を超えるほどの大量のセミが、繁殖を終えて次々と死んでいく。
そうでなくても、このセミたちは飛ぶのが苦手で、踏み潰されて死んでしまうものも多い。
すると道路はツルツル滑るようになりますし、積もった死がいを片付けるのには雪かき用のスコップが必要になることも……。
そのうえ昆虫学者のフロイド・W・ショックレー氏によれば、死がいは腐ったナッツのにおいを強烈に放つそう。
嗅いだことはなくとも、恐ろしい響きですね。
ですが、素数ゼミは感染症を運んだり、人を噛んだりはしない安全なセミとのこと。
もちろん日本にはいませんが、迷惑なこと以外は無害というのは安心できます。
大量の死がいは土を豊かにしてくれるものでもあるそうですから、地球のためには必要な現象のようですね。

セミに関する余談
「セミは7年を地中で過ごし、1週間で死んでしまう」
……そんな風に言われているのを聞いたことはありませんか?
この有名な言葉、実は「そうでもない」かもしれません。
セミが土の中で幼虫として暮らす時間は、実はよく分かっていません。
タマゴから羽化までずっと土の中にいるうえ、飼育も難しく、しかも生育環境で羽化までの時間が変化するため、調査のしようがない、というのが実情のようです。
ですが、一説によれば日本には7年も地中にいるセミはいないのではないか? といわれています。短いセミでは1年ほどで地上に出てくるのではないか? という説も。
更に、セミの寿命は意外と長く、3週間~1ヶ月程度だということが分かってきました。
セミを捕まえ、印をつけて放ったあと、しばらくしてから印のついたセミが生きているかを確認する……という自由研究をした中学生がいます。
その結果、32日も生存が確認できたアブラゼミがいるそう。
通説の4倍以上も長生きだとは……。
……とはいえ自然界はとても過酷。
運が良くなければ天寿を全うすることはできません。
そう考えると、7日間で寿命を迎える儚い生き物というのも、あながち間違いではないのかもしれませんね。
まとめ
江戸時代以来の大量発生でアメリカに大混乱を生み出した素数ゼミ。
進化によって「最小公倍数が大きくなる、素数の年に大量発生する」という摩訶不思議な特性を持ったセミです。
1兆匹ものセミは「騒音」や「大量の死がい」といった問題を引き起こしますが、素数ゼミは人を噛んだり感染症を運んだりすることのない無害なセミです。
生態系の一部として土を豊かにする作用もある現象です。
「迷惑だから」といって駆逐する前に、理由を考えてみると、新しい発見があるかもしれませんね。
今年の夏はセミの鳴き声を聞きながら、遠いアメリカのセミ事情に思いを馳せてみるのも風流かもしれません。
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